2013/06/17

RETRIEVED : Charlotte Dumas (2011, The Ice Plant )







9.11の直後、ワールド・トレード・センターとペンタゴンという二つのテロ現場で救助にあたった、全米から集められた100匹近くの人命救助犬。凄惨な現場で昼夜を問わず消防士に寄り添って働くその存在自体が、人々にとっては小さな希望や慰みであった。彼等の映像は9.11の一つの象徴としてCharlotte Dumasの心を捉えた。

10年後、Charlotte Dumasはそれらの救助犬の行方を調査し、その中でまだ生きていた15匹を訪れる旅に出た。

アメリカの様々な街で生き続けていた犬達は、10年前のあの日、同じ場所で同じ使命のもとに集められ、確かに共に働いていた。

そんな犬達のポートレートから成る写真集『RETRIEVED』。
Charlotte Dumasの深くえぐるような力強いポートレートが光る名作。

2013/06/05

AC:ISA GENZKEN WOLFGANG TILLMANS(Museum Ludwig Koln, 2001)






彫刻を主なメディアとする現代アーティストISA GENZKENと写真家WOLFGANG TILLMANS。旧知の仲の2人にとって初めての2人展が2001年にケルンのLudwig美術館で開催された。その時のカタログがこの本。

ティルマンスの5.5mx8mの写真作品「Wake」と、その前にそびえ立つ、ゲンツケンによる鏡面の巨大なスカルプチャー。作品の中に存在する観客、それを含む光景、延々と反復するイメージ、拡張する空間。

この展覧会のドキュメンテーションとなるカタログは、それぞれの制作風景のドキュメントと、お互いのポートレイトが収められている。関係性や、展示されている作品にいたるまでの一貫した制作という行為が良く分かる、とても良いカタログ。互いのメディアで最重要アーティストであるこの2人の関係が、やはりお互いのメディアそのものの意味を考える上でも、意義深いコラボレーションをしていることが分かる。

MADE OF CONCRETE : Körner Union (Swiss Federal Office of Culture, 2011)







スイスのグラフィック・デザイナー/フォトグラファーユニット、Körner Unionの作品集。

静謐なオブジェのポートレート。


よく見ると…


スケールが巨大!絡まり合うオブジェたち、車、ピアノ、本物の木!合成ではなく、スタジオ撮影で作られてる。


展示方法を見ると、オーセンティックな白いフレームに、良い子なモノクロ写真の顔をして展示されている。


本業はコマーシャル・フォトグラファーの彼等。
ファッション・シューティングが特にキュートです。
スイスのハイセンスなユーモアはホント、無敵。



ちなみにメイキングを記録したタブロイド紙が発行されていたんだけど、そちらは既に絶版。私はベルリンのMottoで見ました。(売ってはくれなかった)

2013/06/04

Broken Manual : Alec Soth (2010, Steidl)










アレック・ソスによる「世捨てマニュアル」。

変わったタイトルの通り、本当に夜逃げした人をリサーチして制作されている。

身の隠し方、変装の方法、ログハウスの作り方、サバイブの仕方。

「ステップ7:女を避けろ/世を捨てるのならばあきらめなければならないこともある。答えは単純だ、女を諦めろ」

などハードボイルドなテキストも収録。

テキストのイラストレーションとして機能する写真と、逃亡者の肖像や風景写真がランダムに構成されている。全体のベースになっているのはソスの圧倒的に上手な、アメリカの伝統的な写真。その意味で、<マニュアル>だけど、実は問答無用で厳然たる<写真集>で、そこもジョークなの?と思わせるくらいの余裕が感じられる。ほどに、写真が上手。

この写真は世界中で高い評価を得て、スペシャルエディションもすぐに完売、廉価版の写真集も絶版になった。しみじみ思うけれど、このような不思議な写真集が讃えられ、求められ、語られ、伝説になるなんて、つくづく奇妙で楽しい世界ですよね。