2012/12/31

Color and Gray : Claudia Angelmaier ( E.A. Seemann, 2008)

2008年のNew York Photo Festivalで購入した、ドイツ人アーティスト・クラウディア・アンゲルマイヤーの写真集。表紙にもなっている、ある特定の本のイラストレーションを版違いで配置して撮影し、一枚の写真にしている作品に目を奪われた。

ドイツのアカデミー、ライプチヒの美大などで学んだというアカデミックな作風。ベンヤミンの『複製技術時代の芸術』を度々引用し、イメージの複製物であるイラストレーション、スライド、ポストカードなどを素材にしている。印刷の版の違いによるバリエーションの他、経年や保存状態によっても色が異なる。

たった一つ、と思っている「イメージ(像)」の可能性は無限にあって、じゃあ私たちは何を見ているんだろう、とぼんやりさせられる。






2012/12/30

OUTSIDE IN : Stephen Gill (Photoworks, 2010)

先日の続き、のようですが。

2010年のBrighton Photo Festivalでのスティーブン・ギルのアプローチ。
彼はブライトンの街で拾ったゴミ、すくった泥、微生物、海の水(!)などあらゆるものをカメラの中に入れて(カメラに高精度の鏡をつけて改造し、フィルムの上にこれらのものが乗るように細工しているそう)、街の様々な表情を撮影している。出来上がった作品は、風景や人々のポートレートとミクロな対象物が柔らかく重なり、ブライトンの街の表情を引き出している。
おそらく山のように撮影をしていると思うのだけど、(カメラは数台壊したらしい)その中で奇跡のようにカメラの中でのミクロとマクロのコラボレーションが成功しているイメージがある。小さな塵が大きな石に見えたり、小宇宙のようなイメージの中で、ブライトンの街が膨張していく。
スティーブン・ギルの、このように人が暮らす街のある一定の表情を捉える力は天才的に強く、ブライトンだけでなくロンドンやその他の街を題材にした作品でも、くすり、と頬が緩むような、ユーモアと優しさがあって、かつ完成度の高い写真を生み出している。いつでも、新作が楽しみなアーティスト。



2012/12/28

Brighton Picture Hunt : Alec Soth (Photoworks, 2010)

2010年のBrighton Photo Festivalに招待されたアメリカ人写真家のアレック・ソスは、ロンドンの空港の税関で、就労ビザがないために、入国は出来るが写真は一切撮影を禁ずること、撮影している現場を押さえられた場合には罰金と禁固二年の刑に処せられる旨を告げられる。(写真家はしばしば、社会的に怪しいやつと判断されるのだ)
すっかりやる気をなくした彼は、同行していた自分の娘・カルメン(7歳)にカメラを持たせる。こうして彼は自らが撮影することなく、フェスティバルのコミッション・ワークを完成させる。結局カルメンが撮影した写真が、展覧会場を飾ることになった。本書はその図録にあたる。

彼女が推定120cmくらいから見たブライトンの街、人、現象や生き物(ワンちゃん)が素晴らしく良い。写真も、すごく上手い。編集はおそらくソスがしていて、ブライトンという街の優しさが伝わる本に仕上がっている。ピンクの表紙や彼女の筆跡、ポートレートが少女らしい愛らしさを演出していて、ちょっとズルい。くらい可愛い。

2010年のBrighton Photo Festivalではソスの他にスティーブン・ギルと川内倫子さんが招待されていた。それぞれの街に対するアプローチをそれぞれの図録で見ると、面白い。



















マーティン・パー風!



















ロー・エスリッジ風!


















視点が低いのがいい。


















「読者の皆さんへ 

本当に私が全部撮ったんだから!

カルメンより」

というステイトメント付き。




2012/12/27

The Mushroom Collector : Jason Fulford ( The Soon Institute, 2010 )



オランダ人の知人から『僕が手伝ったキノコの写真集が出るから見てね』と言われたのは2010年のこと。現在のキノコブーム以前だったので(今ではキノコは深い撮影対象だと知ることができた)、キノコ?と首を傾げていたが、出来上がりをみてその素敵さに感激した。

余談だが、『世界の菌シリーズ:きのこ』みたいな本を想像していたが、こういった『こねこ』とか『パンダ』とかの単体生物がひたすら撮影された写真集(一般書店で花や星の写真集の並びにあるやつ)は日本特有のものらしく、外国人にはたいそう奇妙に映る、とは友人Jason Evansの談。だからすごく面白い、とも。

写真家であり、出版社J&L Booksの主宰でもあるJason Fulfordは友人からフリーマーケットで入手した大量のキノコの写真を受け取った。そのイメージはやけに頭にこびりつき、やがて彼自身が撮影した写真と織り交ぜて一冊の写真集にした。それがこの本。本書は2010年ベスト写真集に数多く選ばれ、現在は絶版となっている。
Jason Fulfordのスタイリッシュな写真集は常々人気を獲得しているが、スタイルの陰に深い写真への知識や洞察が見て取れる。そもそもとても難しい写真集だと思うのだ。前半は前述のファウンド・フォトと、彼自身によって撮影されたWilliam Eggleston的アメリカの風景が混ざっており、後半は暗室写真のような、不思議なセットアップ写真と混ざっている。彼が撮影したものは6×6の正方形、ファウンド・フォトはポストカードの比率。そして、ほぼ全てのイメージにキャプションが付いているが、これがまたイメージと関係があるようでないようで、こちらを煙に巻く。いわゆる「写真論」的、アカデミックな読み解き方もできそう。
造本の『今っぽさ』と同居する写真的クレバーさ。彼のヨーロッパでの人気ぶりを見ていると、アレック・ソスにも通じるアメリカ特有のこういうブリージーなカッコよさはヨーロッパ人から見ても憧れみたいだ。もちろん私も、憧れてしまう。

2012/12/26

Roxane : Vivian Sassen (oodee, 2012)

独自のスタイルでファッション写真界を突き進むVivian Sassen。フォルムに寄ったユニークなポートレートの文句無しのカッコよさで広く人々を魅了する。世界のアート系出版社がこぞって写真集を出したくて、今や引っ張りだこ状態。素顔の彼女は豪快で大柄なカッコいいオランダ美女で、作品も本人も人を惹きつける、魅力的な人。
そんな彼女の新作、『Roxane』は彼女の”ミューズ”であるRoxaneをモデルに起用した作品。コンセプチュアルで完成度の高い作品が連綿と続くいつもの写真集スタイルに比べ、今回はヌケ感があって、iPhoneで撮ったのでは?と思うほど軽いスナップショットが挟まれていたり、プロセスが感じられるカジュアルな作り。Alaia、セリーヌ、マルジェラなど、モデルが着用している服も豪華で面白い。


奇妙な表紙。



















壁と頭の間にファーのバッグ。カッコいい。ちなみに左は鏡の中のリフレクション。




















度々登場する壁の接写。




2012/12/25

ICY PROSPECTS : Jorma Puranen (HATJE CANTZ, 2009)




Jorma Puranenは1951年生まれ、Helsinki Schoolの第1世代の代表的作家。北極圏の文化(探検や伝説など)をテーマに、写真と絵画の関係性について問いかける(しかもとても美しい!)作品を多く制作している。この「Icy Prospects」は2005-2006年にかけて制作された作品。一件油絵に見えるこの作品は、板に黒い樹脂を塗り、それに冬の風景を反射させ、それを撮影しているというもの。絵画を絵画たらしめるものはストローク(絵筆の跡)か?それとも描き込まれている光景か?「これは絵画である」とパッとみて認識する私たちの知覚とは?など色々問題提起してくる挑発的な作品なのだけど、とにかく息をのむほど美しい写真の連続で、ページをめくるごとに甘美なため息すら出る。一筆一筆に感情を込めた「絵画」でないゆえに、叙情的ではない客観性を与えていて、それもとても心地いい。

2012/12/24

Inga kan älska som vi : Ylva Sundgren (Journal, 2010)





Ylva Sundgrenは1981年生まれ。ライアン世代でもあり、JH Engstromをアニキと慕うAnders Petersenチルドレンの一人とも言える。スウェーデンの作家に特徴的な圧倒的な孤独感は、初夏の湖にも、ダンスパーティの光景でも、いつも雪に閉ざされる厳冬の存在を感じさせる。
本書はストックホルムの素晴らしい出版社Journal からの発行。写真部分に全ページグロス加工がしてあり、ポラロイドの生々しさが魅力的。

そして、とても小さい。

カメラと比較





2012/12/22

Luigi Ghirri : POLAROID ( Baldini Castoldi Dalai Editore, 1998)

現在再評価がとても高まっているイタリアの写真家・ルイジ・ギリの作品集。1973-83年の間に撮影したポラロイド写真を収録。センスとしかいいようのない
軽やかな色彩感覚、構図、あたたかい目線で切り取る風景、人、現象。どのページをめくっても感嘆させられる名作写真集。





2012/12/19

Atlas : Gerhard Richter (d.a.p, 1997, 2007)

ゲルハルト・リヒターが1961年に東ドイツを去ってから1995年までに集積、または記録してきた膨大な量のイメージをグルーピングし体系立て、パネル化した作品を750点あまり収録。日本では2001年に河村記念美術館で本作品の展覧会が開催された。

ペインティングのための素材と思われる写真、ホロコーストの写真、印刷媒体の切り抜き、ファウンド・フォト、そして妻、子供、家族の写真。

個人の物語と集団の物語が全てが並列され、なんの価値付けもされず、冷酷なまでに徹底的に『見る』ことで出来上がる壮大なイメージの貯蔵庫を見ているよう。いや、貯蔵庫ではない。脳の中というには現在形すぎて、アーカイブというには時系列すぎる、もっと既存の縮尺で測れない多次元に広がるもの。『Atlas』は『世界地図』と一般に訳されるが、ここではその言葉は有効ではない気がする。既存の言葉で代用するのが難しい、Atlasという言葉でしか表現できない巨大な何か。現代最高峰の画家のそれについて少しだけ、でも全てではないけど、見ることができる写真集。